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ある高齢者と私

 

田良原 住 子
(西宮市)

 

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地震とその災害については、既に新聞やテレビ等で語り尽くされている通り難問を山積しながらも逐次復興に向かっております。地域では、住宅問題の深刻さと並行して心の不安が静かに拡がり深まっています。特に身寄りのない高齢者の場合。
地震の直後に、自治会の役員が手分けをして各戸の安否を確認に回った時から係わることになった一人のおばあさんについて述べてみます。地震の直後、寒さと恐ろしさで毛布を頭から被って全身震えが止まらず、声も出ない状態でした。住んでいたマンションは倒れそうに傾き、危険状態になっていました。自治会長と連絡し、病院施設へと何軒か尋ねて、ようやく受け入れて貰う所が見つかり、着替えだけを持って送って行きました。おばあさんの住んでいた半壊のマンションの自室の荷物などを整理して欲しいと家主に言われ、幸いその近くに預かって貰える所が見つかったので、本人の了解を得て、ボランティアの人と協力して一先ず整理をしました。
このおばあさんに係わった部分だけを書きましたが、それと同時に避難所生活をしている人達の食事の用意、救援物資の分配、家屋全半壊の調査、病人怪我人の調査と報告、等々、今振り返ってみると寒い六甲おろしの吹く日々を忙しく走り回りよく頑張りました。
さて、このおばあさんは、肺炎を併発していましたが、経過もよく、2カ月して退院することになり、申し込んでいた仮設住宅にも入居できました。話が前後しますが、おばあさんの身の上は、年齢77才。夫は戦死。一人息子は病死。親も3人の兄弟も皆すでに他界。唯一の血縁だった甥は昨年事故死。全くの独りぼっちで、本当に淋しい気の毒な人であることを痛感しました。今回のショックで生きる気力も体力もないと塞ぎ込んでいるおばあさんに、大勢の人が犠牲になった中で、無事に助かった命を大切に致しましょうと話し合いました。時には、おばあさんの好物を買っていったり、同じマンションに住んでいた人達の消息や世間話など1時間近くあれこれお喋りをしている間に、元気になって笑顔が見られるようになりました。
そんなある日、暫くぶりに尋ねて行ったら、いつもと様子が違って、深刻な顔をしていま した。尋ねると、仮設住宅の期限がきても出 ていく所がない、どうしようと考えていたら、心配で夜が寝られなくて困っているとの事で した。早速、市の対策や見通し等を具体的に 聞いて、おばあさん一人だけでなく大勢同じ ような方があるから、市も一生懸命対応して いることを分かりやすく話をしてあげました。一人であれこれ考えていると限りなく不安に なるので緊急ベルの携帯をするよう手続きをしました。仮設住宅の近くの民生委員やホー ム・ヘルパーさんと連絡を取りながら、温かく、さり気なく、見守って行くことにしています。時々かける安否の電話の向こうで、「ハイ、私は元気にしています」との声で、おばあさんの状態が分かる、そんな関係にな りました。着物姿のよく似合う品のよい、そして「アンパン」の好きなおばあさん、いつまでもお元気でと祈らずにはおれません。

 

 

 

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